木さん作 小さな椅子
こんばんは
たのしいブログにするつもりではありますが、本日はどうしても書いておきたい 大切な方 のおはなし。
長くなるのでお時間のある方のみお付き合いくださいね。
彼(ここでは木さんと)は私が京都でガラスの修行時代に大変お世話になった木工家さん。
歳は私の母と同じで、そんな年上なのになぜか気が合って、修行時代の4年間、友人のように、
親子のように私に付き合ってくれた。
木さんはスタッフとして勤めていたガラス工房のそばの山奥に一人でプレハブを建ててひっそりと
暮らしていた。私は仕事が終わるとよくバイクにまたがって木さんの家に寄り、愚痴やら、恋愛相談
やら、音楽のこと、世の中のことなんかを時間を忘れて話したりした。
木さんはずっと昔に奥さんと別れたらしく、息子も2人いたが上の息子さんとは音信不通。結婚式にも
呼んでもらえず、子供ができたことも知人あてに聞いたとか・・・。でも、下の息子さんとはたまに会って
いて、大工の仕事も手伝ってもらってるとかで、私が手伝いに行ったときに紹介もしてもらった。
木さんの暮らしは「中年男の一人暮らし」という言葉から想像するような、むさくるしい生活ではなく、
プレハブには彼の作った木工作品やら、作りかけの家具やら、家具仕事の道具がたくさん散らばって
はいたけれど、いつもなんとなく片づいていて、訪ねて行くと「あ~くまちゃん、散らかってるんやけど
え~か~?」と ものの数分で私が落ち着ける空間を作ってくれた。
私はいつでも遠慮がなく、木さんが疲れているんだろうかとかも気にせず、上がり込んで、簡単な
夕御飯までごちそうになって帰ったりした。
木さんは独り暮らしが長いせいもあるが、山に登ってキャンプしたりする人だったから、簡単で
おいしい料理をつくれる人なのだ。特に木さんの作るシンプルなオムレツは絶品で、フライパンから
お皿にひょいとうつすと中が半熟でトロトロのため、ふるふると揺れるのだ。
私はいつも自分でオムレツを作る時「火がな~入りすぎるとうまくないんや~」という木さんの言葉と
木さんのやさしいオムレツの味を思い出す。
木さんとはよく山登りもした。京都の原生林も歩いて私の仕事仲間と3人で遭難しかけたこともあった。
屋久島にも行った。その当時遠距離で友人関係だった今のわたしのつれ合いと、なんとか仲良く
なりたかった私は、彼が屋久島に行きたがっていたので、屋久島に行ったことがあった木さんを
ガイド代わりとして誘い、彼に「ガイドがいるから一緒にいかない?」と声をかけたのだ。
そんな私のよこしまな動機もきっと木さんはすべてわかっていて快く一緒に行ってくれた。
4年間の修業時代を終えて、独立のためと今のつれ合いとともに暮らすため、北海道へ行くと告げた
時の木さんの寂しそうな顔は今でもよく覚えている。私の新しい旅立ちだから応援したいし喜んで
あげたい。けれど・・・。
複雑な顔で「よかったな~」と言った木さんを私は直視できなかった。
あまり人付き合いの得意でない木さんにとって私がいなくなるというのは寂しいことなのは私も
よくわかっていたのに。
わたしはただ「うん」とだけ言って少し困っていたように思う。
北海道に来てからは電話でやり取りしていたものの、そのうち、木さんが病に倒れ山奥のプレハブ
を片づけ、京都市内の唯一の身内の家にお世話になっていると知人から知らされた。
電話をかけると言葉がうまくしゃべれないため、最初はすぐに電話を切ろうとした木さんだったが
私が気にせず、昔プレハブにずかずか上がり込んだ時の調子で話し続けていたら、そのうち
嬉しそうに話しを続けてくれた。
ここ数年は年末に私からカレンダーを送るのが習慣になっていて、そのお礼を木さんが電話して
きてくれる時のみ 話をする程度だった。
一度私が「生まれた息子とつれ合いと3人で会いに行ってはだめか?」と尋ねたら、木さんは
やんわりと断った。生きることにおいてプライドの高かった木さんは、自分の今の姿を私に
見せたくないんだと思い、寂しかったけれど無理に会いに行くことはしなかった。
修行時代からずっと、木さんは私の味方で、いつでも励ましてくれて、心配してくれて、いろんな事を
教えてくれて、たくさんのものをくれた。
写真の椅子も北海道へ旅立つ時、いつも私が木さんちで「これいいよね~」と言っていたからと
大切な作品なのにプレゼントしてくれたのだ。
ものすごく丁寧な仕事。
私の宝物だ。
数日前に友人から木さんの訃報を聞いた。
木さんが逝ってしまって もう1ヶ月経ってしまっていた。
不思議と涙が出なかった。
悲しいという感情がやってこなくて、訃報を聞いてからずっと木さんにしてもらったことばかりが
思い出された。
「木さんは人付き合いが下手」だとか仕事のやり方なんかで木さんを悪く言う人もいたけれど、
私にとっては 出会ってからずっと 大切な人でした。
今こうして暮らしていられるのも木さんのおかげです。
木さん 本当に本当にありがとう。
ブログなんかに木さんのことを書いたのは
けっして人付き合いの上手な人ではなかったけれど
木さんを覚えている人はあんまりたくさんはいなかったかも知れないけれど
とってもいいところがあって、すてきな作品を作っていた という事を
木さんの足跡みたいなものを
ちょこっと この世のはしっこに残しておきたかったから。
長々書きました。
お付き合いくださった方
ありがとうございます
Gallery teto²には木さんの椅子が置いてあります。
すてきな椅子なので見に来てくださいね。
あしあと